【レポート】シェアリング@千代田 スタートアップ編 プロジェクト実践イベント 子育ての多様なスタイルの体験をシェアしよう 「海外で子育てしてみた!」~ニッポンの子育ての常識の枠を外してみよう~ with ちよママ

2018年度、ちよだコミュニティラボでは、「まちをシェアする」取組みを展開してきました。テーマのひとつに「子育て」があります。

Step1「基礎編」では、就学準備教室りりーふの村上沙織さんと、千代田区の子育てを様々な形で応援する団体、ちよママの勝連万智さんにお話をいただきました。

Step2アイデアづくり編では、9月に行われたアイデアソンで、参加のお一人が、「ベビーシッターシェアリング」のアイデアを発表されました。自分のキャリアと子育てを両立するために、「子育てをしていても、自分のキャリアにもつながるスキルアップに時間を使いたい。その時間、子供にも充実した時間を過ごしてほしいから、プロのベビーシッターに頼みたい。けれど一人で依頼するには高額だから、ベビーシッターシェアリングができないか」という提案でした。

このアイデアを受け、シェアリング@千代田の講座に参加していた及川早苗さんから、「アメリカのナニーシェアや海外の子育てから、千代田の子育てにあればよいサービスを考えてみませんか?」と、さらなるアイデアが出され、実現したのが、2019年3月10日(日)に行われた【「海外で子育てしてみた!」~ニッポンの子育ての常識の枠を外してみよう~】というイベントです。

30年前に海外で子育てを経験された及川早苗さん、ちよママの勝連万智さんらとの企画会議にて、及川さんの娘さんである向山淳さんがハーバード大学大学院のケネディスクールに子連れ留学中、ちよママの共同代表・牛島希さんがアメリカに滞在中、千代田区在住の田坂佳子さんがメキシコ人のご主人と千代田区で子育て中ということで、話題提供を依頼するスピーカーは即座に決まりました。

千代田区には海外での子育てを経験した人もたくさんいらっしゃいますが、海外で子育てした人の多くが、子育ては“こうしなきゃ”と思い込んでた前提が崩れたと話されています。

海外に滞在中のお二人とはネット会議をつなぎ、自分の中の“子育ての常識”を見直し、自分らしいスタイルを実現する方法を考えてみよう!というイベント企画が固まりました。

当日2019年3月10日は、まず、及川早苗さんから海外子育て経験をお話いただきました。及川さんは30年前にペルー、アルゼンチン、スペイン等で子育てし、現在は娘さんがドイツとアメリカでそれぞれ子育て中(現在も時々、子育てヘルプに行かれる)という海外子育てのいわば大ベテランです。及川さんの感じる日本との最大の違いは「発想の自由さ、のどかさ、のびやかさ。日本はすべてがきっちりして窮屈さを感じるほど」ということでした。

続いて、ちよママの共同代表で現在はバージニア州ウィリアムズバーグに滞在しておられる牛島希さん。

違いを感じるのは、レストランをはじめとするパブリックスペースでの子供への対応で、千代田区では子供連れで大丈夫ですかといちいち確認していたが、アメリカでは基本的に子供連れで受け入れてもらえる社会である、ということ。日本ではスーパーでも気を使っていたという牛島さんですが、アメリカでは子どもが商品にうっかり触ってしまうことがあっても笑って許される雰囲気があるとのこと。さらに日本にもあったよいと感じるのが「お誕生日パーティ」保育園全員の子供と親がそろうので、普段子供がどういったお友達と過ごしているのかもわかるし、親の関係もできて、ぜひ日本でも(千代田区でも)やってみたいと感じておられるそうです。

メキシコ人のご主人と千代田区で子育てしておられる田坂桂子さんは、日本との違いを3点、お話くださいました。

1点目は、メキシコは車社会なのに対して日本は良くも悪くも公共交通が発達している国。ただ、小さい子どもがいる保育園に通う者同士では、移動手段のシェアがあったらいいね、とよくお話しされているそうです。

2点目は、メキシコでは近所に親兄弟が住み、親戚がよく集まって、みんなでみんなの子供を育てる雰囲気や環境があること。例えば、お誕生日会には親戚一同がそろうし、田坂さんのご主人も親戚の子供の面倒をよくみていたので、子どもを抱きなれているそうです。親兄弟、親戚が近所に住むのは日本では難しいとしても、ご近所同士でパーティなどができたらよいと、牛島さんのお話に共感されていました。

3点目は、牛島さんのお話とも共通しますが、日本にあるのは、「子連れでも楽しめるママさん向けレストラン」対してメキシコは、大人としても十分楽しめるおしゃれなレストランに、キッズスペースが併設されているお店がたくさんあること。子供が増えていることもあり、夜の遅い文化のメキシコでは23時くらいまで多くの方が子連れでお酒を飲んで楽しんでいる。ママさん向けレストランよりは、ふつうのお店に気兼ねなく子供を連れていけるメキシコタイプのほうが利用しやすいし、東京にできたらよいと思うとお話くださいました。

続いてハーバード大学大学院ケネディスクールに、1歳半のお子さん連れで留学中の向山淳さん。ケネディスクールにはお子さんの育児休業期間を利用しての留学していらっしゃいます。
向山さんからも、3点のお話がありました。

(以下、向山さんがイベント後にご自身のブログにまとめてくださった内容を引用します)。

1) 社会の目のあたたかさ

ボストン(多分アメリカ、欧米全般)は子供に対する目があたたかい。都内で電車やバスに乗る時やレストランで子供が騒いだ時などの冷たい目線への恐怖、ベビーカーでエレベーターに乗りたくても譲ってもらえない無念さ、エレベーターが無いから子供とベビーカーとデカイ荷物を泣きそうになりながら必死で抱えていても、誰も声をかけてくれない悲しさ、
・・・とか、そう言う経験をすることは、まずない。

レストランも、大体ほとんどの店に子連れでも入れるし、すぐベビーチェアを出してくれる。入りやすいだけでなく、たとえレストランで泣き出してしまって、「あ、しまった」とか焦っていると、「元気でいい子ねー、心配しなくて大丈夫よ、みんなが通る道なんだから」とか、他のお客さんでわざわざ声をかけてくれる人が、必ずいる

店員さんも、子供がいるとニコニコあやしてくれたり、「クラッカーいる?」とか聞いてくれたりする。ドアは必ず開けてくれるし、大荷物と子供を抱えていたりすると、同じ道を歩いていた見知らぬ若人が持ってくれたりする。

大学院の授業でさえ、ベビーシッターが来れなくて困っていたら教授が「子供を連れてきていい」と言ってれたり、雪で保育園が閉園して困って相談した時はすぐさま「授業はビデオを撮るので後で家で見るように」と言ってくれたりする。

なぜ日本であんなに怯えて、不便に思って生きていたのか不思議なくらいだ。

2) 個人を尊重した多様な生き方の許容ができる。

子供の保育園でもアンチ・バイアス教育がされているくらい、多様性の許容、を重要視している。(リベラルなマサチューセッツだからという要素は少なからずあるものの。)

アンチ・バイアス教育では、「あの子はお弁当は、毎日お米、この子はパスタ。」「あの子はママがいなくてパパが2人、この子のママはいつも頭にスカーフを巻いている。」「あの子はクリスマスを祝う、この子はお正月を祝う。」「みんな違いがあるね。でも、『違う自分』を好きでいていいし、『違うお友達』を好きになろう。それが素敵なことだよ、、」と教える。

子育ても自分のやり方を尊重してくれる。おしゃぶりを結構大きくなるまで使う子もいるし、母乳・ミルクで悩んだり責めたりしない。「こうあるべき」という常識にとらわれることなく、自分にとって最適だと思う選択を尊重し、そして色々な選択肢を許容してくれる。

3) 自分のことを大切にする、そして自分で変えていく。

夫婦で夜ベビーシッターさんに預けて食事をしたり、パーティに参加したりすることが普通だ。お母さん・お父さんがいたい自分でいられるように、ヨガや運動をする時間を作る、子供に誇れる仕事をする、など、子供と同じくらい自分も大切にする意識がある。

そして、何より、以前紹介した通り、整っていない制度や設備について、文句を言うだけではなくて、自分たちが動いて変えていく!と言う意識がある。

一方で、最大のマイナス面は、公的制度が全然整っていないこと。
育休しかり、保育園の値段(月30万円くらい)しかり。資本主義的にお金を出せば沢山のサービスがあるが、それでも保育園は待機児童が沢山。ベビーシッターさんも、玉石混合なのできちんと自分で信頼できるソースを探したり、面接したり、情報を要求したり、きちんと調べたりすることが求められる。

おむつと涙とハーバード 「制度の充実と社会的育てやすさはイコールではない:育てやすい社会を作るために。」(向山淳)より抜粋

こうしたスピーカーからの話題提供を受け、会場からは多数の意見が出されました。

自分らしく生きる事を大切にしていて、チャレンジしているワーママ達から勇気をもらいました。

印象に残ったのは、アンチバイアス子供の想像力を自由にひろげる環境

こんな世の中は嫌だと思ったら、自ら動くしかない。社会を変えて行くのは自分の行動と痛感。

・文化、習慣などいろいろな違いはあっても、一人1人のパパママは悩む事がある。ここを乗り越えていく周囲、環境のサポートが大事

子育て中の方がいかに周りに気を使っているか実感しました。スピーカーの方々のお話、どれもおもしろかったです。

日本と海外の差に、社会の目のあたたかさがあるという話がありましたが、海外旅行をしていると子育てに限らず、人のあたたかみを感じることが多いなと感じます。日本の整った制度に加え、海外のそういった良い点をどうしたらプラスできるか考える機会をいただきました。

・ずっと千代田区に住んでいるので自分にとっては当たり前で普通だと思っていた環境が、海外や他地域から引っ越してきた人たちにとっては住みにくいと感じるところもある環境だということに気付かされた。また、日本の教育環境的にもマジョリティを選択すると安心する心理構造ができあがってしまっていると感じるので、マナーやルールの範囲内で自分の意志を明確に持ちながらも自分と違うものも容認し支援できる思考回路を形成する社会にならない限り日本人の「冷たさ」は減らないのではないかと感じた。人種として見ると日本人よりも諸外国人のほうがはるかに子連れに親切だと感じるが、日本人にもとても親切な人はいるし外国人で冷たい人もいるので、親切な人に親切にされることに慣れてしまわずに、自分の問題は人の手を借りなくても解決できるように考えて行動できる人間でありたいし、助けが必要なときは自ら助けを求められる人間でありたいし、自分が他者に親切にできる人間でありたいと思った。

さらに、「千代田区にあったらいいな、こんなことできないかな、と思う活動やサービス」として、次の意見が出されました。

〇食

・4年前位にあった、子連れのオシャレランチ会(コンサートつき)

プレイエリアがあるレストラン

ママはテラスでビールを片手に子供を遊ぶ姿を眺めれるような飲み企画。

〇語

語りの場

・今回のように「こうしたい!」というテーマをもっと増やしていきたい。

〇交流

ベビーシッターを雇って、ママ・パパ達で交流する。

子どもと遊ぶパパママ支援サークル

〇イベント

・参加者から提案のあった、こどもと遊ぶ会があったらぜひ参加したいです。

ナチュラルツアー。逗子や伊豆など身近な海に千代田区親子がツアーで出向き、SUP、ビーチヨガ、BBQなどマリンアクティビティを楽しむ企画。

〇場

・子供が安心して遊べる公園や施設が少ないので、遊具の多い公園や、室内キッズパークのような施設ができたら嬉しい。(今は他区の施設へ遊びに行っている。)

イベントでの対話を通じ、日本での子育てに少なからず窮屈な思いを抱えていた参加者の方が多かったことが明らかになりました。制度は整っているが子どもや子育て中の家族に対する許容の少ない日本制度は整っていないものの社会のあたたかな理解と許容のある海外の環境多様性(アンチバイアス)を認める社会画一的な価値観の強い日本、といった違いの中、皆さんが、改めて、自ら行動していくことも含めて子育ての環境をつくっていくこと自分らしく生きることを大切にすることを笑顔で語り合うなか、お子さん連れの方が多数のにぎやかな会場でのイベントが終了しました。